はじめに
「看護師にITって必要なの?」——そう感じる方は多いと思います。看護師の仕事といえば、患者さんのケアや診療の補助といった“現場での対応力”が最も重要視されます。しかし、医療の世界は今、電子カルテやオンライン診療、AIの導入など、急速にデジタル化が進んでいます。
その流れの中で、看護師がITスキルを持つことは「できたら便利」ではなく「キャリアの可能性を広げる武器」になりつつあります。
私自身も、看護師として働いていただけでは、ITの必要性を感じることは少なかったです。
しかし、別の業界にチャレンジをして「これだけ仕事って効率的にできるんだ」という発見がたくさんありました。
今回は、看護師がITスキルを学ぶべき理由と、実際にどんなスキルを身につけると良いのか、そしてそれがキャリアや働き方にどんな選択肢を与えてくれるのかを紹介します。
1.なぜ看護師にITスキルが必要なのか

医療DXの加速
厚生労働省は「医療DX推進本部」を設置し、電子カルテの標準化、オンライン資格確認、AIによる診療支援などを進めています。現場ではすでに「紙の記録」から「電子カルテ」「タブレット入力」へとシフトが進んでおり、ITを活用できるかどうかで業務効率に大きな差が出るようになっています。
例えば、かつてはナースステーションで紙のカルテを探す時間が当たり前でしたが、今では端末から瞬時に情報を検索できます。システムを使いこなせるかどうかは「患者さんに向き合う時間を増やせるか」に直結しています。
業務の効率化
看護師の仕事は「患者さんに寄り添う」だけでなく、膨大な記録や委員会活動、研修資料の作成など「デスクワーク」も意外に多いのが現実です。ExcelやWord、PowerPointの基本操作を理解しているだけでも、同じタスクにかかる時間が半分以下になることがあります。
たとえば、委員会のアンケート結果をExcelで手入力し、集計に何時間もかかっていたものが、関数やピボットテーブルを使うことで数分で終わるようになります。こうした効率化は「残業を減らす」ことや「看護師の働き方改革」にも直結します。
チーム医療での役割拡大
医療現場は多職種連携が基本です。医師、薬剤師、リハビリスタッフ、事務職員などと協働するとき、データ共有や情報発信の場面でITリテラシーのある看護師は非常に重宝されます。
プレゼン資料の作成や業務改善の報告などで「わかりやすく見せられる力」を持つ看護師は、チーム内で一目置かれる存在になります。
患者サービスの質向上
ITスキルは患者さんとの関わり方にも影響します。高齢者へのわかりやすい説明資料を作成したり、外国人患者にタブレットで多言語対応の案内を提示したり、テクノロジーを使うことで「伝わるケア」が実現しやすくなります。
また、今後はウェアラブルデバイスや遠隔診療がさらに普及することが予想されます。そうなれば、看護師がITを理解しているかどうかは患者さんに提供できるサービスの質に直結します。
2.ITスキルを学ぶメリット

業務効率化で自分の時間を増やせる
ITスキルの最大のメリットは「時間の節約」です。
例えば、委員会のアンケート結果を集計するとき、手計算や表を手作業で作ると半日かかることもあります。しかし、Excelの関数やピボットテーブルを使えば、ほんの数分で集計とグラフ作成が完了します。これだけで残業時間が減り、患者さんと関わる時間や自分の休養に充てられる余裕が生まれます。
また、生成AIを活用すれば、看護記録の文章例や教育資料の叩き台を短時間で作ることができます。もちろん最終確認は人間が必要ですが、「ゼロから書く」負担が減るだけでも大きな時短効果です。
キャリアの選択肢が広がる
ITスキルは「看護師としての強み」に新しい価値を加えます。
例えば、電子カルテのシステム導入や病院の業務改善プロジェクトでは、現場を理解している看護師の存在が欠かせません。ここで「看護の知識+ITスキル」を持つ人は重宝され、システム担当や医療情報技師といったポジションにキャリアを広げられます。
副業・在宅ワークの可能性
シフト勤務で不規則な働き方の多い看護師にとって、「隙間時間で在宅でできる仕事」を持てることは大きな安心になります。
例えば、Webライティングやブログ運営ではWordPressの操作やSEOの基礎知識が役立ちます。データ入力や資料作成の副業ではExcelスキルが重宝されます。さらに、プログラミングやデータ分析を学べば、案件単価の高い副業に挑戦することも可能です。
病院の仕事に縛られず、ITスキルを使って「働き方を複線化する」ことは、将来のリスク分散にもなります。
医療以外の分野でも通用する
看護師として働き続けるだけでなく、将来的にキャリアチェンジを考える場合でも、ITスキルは強力な武器になります。
製薬会社、医療機器メーカー、保険会社など、医療知識を活かしつつデータ管理や教育に携わる仕事は数多くあります。ここで「看護師+IT」というバックグラウンドを持っていれば、他の候補者と差別化できます。
また、一般企業の健康経営や人材教育部門などでも「医療職の視点+ITで資料を作れる人材」は非常に希少です。
自分自身の学びや成長につながる
ITスキルを学ぶことは、単なる業務効率化のためだけではありません。「新しいことを学ぶ習慣」を身につけられること自体が大きなメリットです。
Excelの関数がわかると数学的思考が鍛えられ、プログラミングを学ぶと論理的に物事を整理する力が育ちます。生成AIを試してみれば、最新技術に触れる好奇心が刺激されます。
つまりITスキルは、キャリアアップだけでなく「学び続けられる看護師」になるための土台にもなるのです。
3.具体的に学ぶべきITスキル

Excel・Word・PowerPoint
看護師がまず身につけたいのは、やはり基本のオフィスソフトです。
PowerPoint:学会発表や院内研修のスライド作成に必須。シンプルで伝わりやすい資料を作れるスキルは「発信力」として評価されます。
Excel:SUM、AVERAGE、IF、VLOOKUPといった基本関数、ピボットテーブルでの集計、条件付き書式など。委員会活動のアンケート集計や勤務シフトの自動作成に直結します。
Word:報告書や議事録作成に必須。表や箇条書きを見やすく整理するだけでも資料の印象が変わります。
データ分析の基礎
医療現場でもデータを扱う場面は増えています。
- アンケート結果の集計・可視化
- 患者満足度調査の分析
- 看護研究でのデータ整理
統計ソフトを本格的に使う前に、ExcelやGoogleスプレッドシートで基本的な統計(平均・中央値・標準偏差)を出せるようになるだけでも十分価値があります。
プログラミング(Python, SQL)
「看護師にプログラミング?」と驚く方もいるかもしれませんが、基礎を学んでおくと強力な武器になります。
- Python:データをグラフ化したり、CSVファイルの整理を自動化したりできる。看護研究のデータ処理にも活用可能。
- SQL:データベースから必要な情報を抽出する言語。病院のシステムから研究用データを取り出す場面で役立ちます。
高度なエンジニアレベルまで目指す必要はありませんが、「触ったことがある」という経験だけでも視野が広がります。
生成AIの活用
ChatGPTやBing Copilotなどの生成AIは、看護師にとっても非常に有用です。
- 看護記録や教育資料の下書き作成
- 英語論文の要約や翻訳サポート
- 学習計画や試験対策のヒント
- プレゼン資料のアウトライン作成
ただし、患者情報を入力しない、出力結果を必ず確認・修正するなど、情報管理の意識は欠かせません。
セキュリティリテラシー
ITスキルを学ぶ際に忘れがちですが、最も重要なのがセキュリティ意識です。
- 強固なパスワード管理(使い回しをしない、二段階認証を使う)
- 個人情報の取り扱い(匿名化して入力する習慣)
- フィッシングメールや不審サイトの見分け方
- 院内システムやデータの持ち出しルールを守る
セキュリティ意識があるかどうかで「信頼されるか」「危ない人と思われるか」が分かれるほど、現代の医療現場では重要になっています。
4.ITスキル習得の始め方

無料で学べるサービスを活用
最初の一歩は「無料」でできる学習から始めるのが安心です。
- Progate:イラスト付きのスライド形式で、PythonやSQLなどの基礎を学べる
- ドットインストール:3分動画でプログラミングの基礎が学べる
- YouTube:ExcelやPowerPointの便利ワザを解説しているチャンネルが豊富
- QiitaやZenn:現役エンジニアが書いた記事で実践的な知識を得られる
いきなりお金を払わず、まずは「触ってみる」ことで自分の得意不得意を掴むことができます。
オンライン講座で体系的に学ぶ
基礎に触れて「もっと学びたい」と感じたら、オンライン講座に挑戦するのがおすすめです。
- Udemy:Excelの実務活用、Python入門、AI活用法などテーマが幅広い。セール時は1,200円程度から受講可能。
- Schoo:ライブ授業型で、質問しながら学習できる。社会人向けのリスキリングにも人気。
- Coursera:海外大学の講座を受けられる。医療やデータサイエンス関連の講座も豊富。
「自分に投資する感覚」で受講すると、モチベーションも高まりやすいです。
実務に結びつけて練習
学んだことをすぐに現場で使うのが定着のコツです。
- Excelで勤務シフトを自動集計する
- PowerPointで委員会報告の資料をつくる
- ChatGPTで患者指導パンフレットの下書きをつくる
- Googleフォームでアンケートをつくり、スプレッドシートで集計する
「身近な業務を少しラクにする」ことから始めれば、学習が「成果」に直結し、やる気が続きます。
5.ITスキルを持つ看護師の未来

ITスキルを持つ看護師は、これからますます重宝されます。医療の世界ではAIやDXが進み、ITを理解できる人材が求められています。現場だけでなく、教育・研究・経営など幅広い分野に関わるチャンスがあります。
世の中の様々な職業はITとの掛け合わせが必要不可欠になりつつあります。
看護師もその例外ではありません。
その中でITスキルを使いこなすことで、今後の働き方やキャリアの選択肢を大幅に広げることにつながります。
さらに、副業やフリーランス的な働き方とも相性が良く、「病院で働く」以外の選択肢を増やすことができます。人生100年時代、働き方を柔軟に選べることは大きな強みです。
まとめ
看護師がITスキルを学ぶべき理由は大きく4つあります。
- 業務効率化で時間を生み出せる
- キャリアの選択肢が広がる
- 副業や在宅ワークの可能性がある
- 医療以外の分野でも通用する
「看護師だからITは関係ない」と思うのではなく、「看護師だからこそITを学んで強みを増やす」という考え方がこれからは大切です。
まずはExcelや生成AIといった身近なツールから始めてみましょう。その一歩が、キャリアと働き方の可能性を大きく広げてくれるはずです。

